557人が本棚に入れています
本棚に追加
「私は直に会って話したことはございませんが、遠目からお顔は存じております。その黄氏が何か?」
「うむ。黄には息子が一人おるのだが――」
「息子さん――でございますか? 確か噂では黄氏は独り者だとか」
「その通りだ。息子というのは実子ではない」
「――では、ご養子でございますか」
「そうだ。黄がこの城内へ来る前のことだ。隣家に住んでいた若い夫婦が事故で亡くなったそうでな。夫婦には息子が一人いたのだが、彼らは日本から移住してきたらしく、残された子供には身寄りがなかったそうだ。不憫に思った黄がその子を引き取り、育ててきたらしい」
何とも奇特な話である。
「日本から移住して来たというと、その息子さんも日本人ということでしょうか」
「ああ。名は雪吹冰というらしい」
「雪吹冰――。それで年は幾つになるので?」
「十七だ。もっとも黄が引き取った頃はまだ小学校の低学年だったそうだが」
ということは、黄老人が子供の面倒を見るようになってから十年ほどといったところか。
「実はその黄の息子がここひと月ほど行方不明になっているらしくてな」
「行方不明?」
十七といえば反抗期も過ぎつつある頃合いだが、幼くして両親を亡くしたというその環境を考えれば何かと悩みも多いのかも知れない。もしかしたら老人とそりが合わずに喧嘩でもして家出したか、あるいはその先で何かの事件に巻き込まれたとも考えられる。
最初のコメントを投稿しよう!