木から落ちる猿

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木から落ちる猿

一匹の子猿が罠にかかった。 右の前足、人でいう手首。 混乱してめちゃめちゃに暴れ、あらぬ方向へ体を捻じると、手首がもげた。 夢中で走って群れに戻り、沢で傷を洗い、傷口を舐めて出血を止めた。 翌朝、猟師は残された猿の手に目を丸くした。 傷が治ると、かれは特に他の猿と変わりなく成長した。 右の手首から先が無いこと以外は。 他の猿みたいに殻を剥く事が出来ず、なんでも殻ごと食ったが、そのせいで歯と胃腸を悪くした。 だから、食ったものが実にならず、体は貧弱だった。 僕は山できのこを採っている時、何度かその猿を見た。 山では様々な動物に出会うが、猿は特に嫌だった。 一匹の見張り。 必ず群れが居る。 何匹居るんだろう? 僕は動物に出会うと、わざと気づかないふりをする。 だいたいの動物は勝手に逃げてくれる。 しかし猿は厄介だ。 一定の距離でついて来る見張りと、その影でキーキーざわめく群れ。 取り囲まれたら、いや、一対一でも勝ち目はない。 しかし、その猿は弱そうだった。 痩せて、右の手首がなかった。 そう言えば、何年か前に猟師から手首をもいで逃げた猿が居る、と聞いた事がある。 こいつが、それか。 こいつになら、勝てるかもしれない。
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