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セレステが涙を浮かべ、お父様に寄り添う一方、私はそんな気になれなかった。
お父様の判断ひとつで、オルテンシア王家の立場は厳しいものになる。
「わかっていると思うが、兄上は情で動く人間ではない」
「う、うむ……。何度も交渉したが厳しくてな……」
お父様の声が小さくなり、空気が重くなった。
どうやら、お父様なりになんとかしようとしていたようだ。
「兄上の考えを変えるのは難しい。ならば、マーレア諸島と直接取引するしかない。そのためにルナリアを連れていき、マーレア諸島の要人と交渉させるつもりだ」
「レジェス様。ルナリアは十二歳。いくらなんでも無理ですわ」
セレステの冷たい目が、私に向けられる。
私からも無理だと言え――そんな圧力を感じた。
これが、セレステの本当の姿だ。
水路に突き飛ばされた時のことを思い出し、ゾッとした。
あの時、セレステにはたしかな殺意があった。
「レジェス様。セレステではいけませんの? セレステなら、どこに出しても恥ずかしくないレディですわ!」
お母様は自慢げにセレステを褒め称えた。
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