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「まさか、レジェスの婚約者とは思わなかったな。俺とレジェスは友人だから、馴れ馴れしいとか思わないでくれよ?」
「はい」
昨晩と違って、今日はアギラカリサの言葉でルオンは話した。
昨日、あの場に私が現れたのは、ルオンにとって予想外のことで、アギラカリサの言葉を話す余裕がなかったのだろう。
ルオンが話す言葉はアギラカリサ語で、とても流暢だ。
それに、触れた手が少しも荒れていない。
昨晩は気づかなかったけれど、彼が纏う異国の香りは高価な香木のもの。
複雑な刺繍が施された長いショールは、マーレア諸島の中では身分の高い者である証拠である。
マーレア諸島では、刺繍が多く複雑であればあるほど、身分が高いとされている。
宝石の数といい、きらびやかな布といい、普通の商人が身につけるものにしては豪華すぎた。
『ルオン様。昨晩は失礼しました』
私はクア族の言葉で話す。
これで、私たちがなにを話しているか、ほとんどの人間はわからない。
『クア族でも身分が高い方とお見受けしました。特別なご用事があって、商人の真似事をなさっているのではないですか?』
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