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黒い瞳が見開き、彼の戸惑う感情が、触れた手から伝わってくる。
『あそこから奥は巫女がいる場所。会いたい人というのは巫女だったのでは?』
『昨晩も驚かされたが、年の割りに聡い。だが、勘違いはしないで欲しい。俺は巫女を殺そうとして、あの場にいたのではない』
音楽隊が奏でる二曲目は、私に合わせてくれたのか可愛らしいワルツの曲が流れる。
『俺の妻にするために、巫女を連れだそうと思った』
それは予想外の告白だった。
『王宮から出られず、生涯を終えるなんて馬鹿馬鹿しい話だろう? 海を見たことがないと言うから、一度くらいは見せてやろうと思った』
『命がけですよ? 巫女とお知り合いなのですか?』
『昔、一度だけ会った』
たった一度だけ。
でも、その一度きりがルオンにとっては、大切な出会いだったのだ。
海を見たいと言った巫女もルオンを待っているような気がした。
『約束をいつか果たしたい。俺が殺されたら、笑っていいぞ』
『笑いません。でも、できれば死なない方法を探して、お二人が幸せになることを私は望みます』
ルオンは微笑み、うなずいたのを見て、死ぬつもりはないのだとわかった。
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