29 あなたの幸せを願う ※シモン

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 宰相になろうなどという野望もなく、妻を娶り、憎しみなど抱かずに穏やかに暮らしていた――? 「あっ! シモン先生!」 「ルナリア様。今、見送りに行こうとしていました」  元気に駆け寄ってくる姿は、ノエリアを思い出す。  星の紋が見えないようにするためか、額飾りをつけ、服はオルテンシア王国のものではなく、すでにアギラカリサのドレスに着替えていた。  オルテンシア王国のドレスと違い、軽めのドレスはルナリア様によく似合う。   「アギラカリサへ立つ前に、シモン先生にお礼を言いたかったんです」 「お礼ですか?」 「はい。私にとって、シモン先生は希望でした。いつも導いてくださり、ありがとうございました」  心から感謝しているのだとわかるくらい深々と頭を下げる。  「お礼など……」  お礼などいいから、ここにいてほしい。  もちろん、そんなことは言えない。  ルナリア様が女王にならないと言ったのは、十二歳のこと。  なぜかと問えば、レジェス殿下に恩を返したい。そばにいたいと言った。    ――夢を叶え、次の場所へ旅立つのですから、喜ぶべきことです。
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