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宰相になろうなどという野望もなく、妻を娶り、憎しみなど抱かずに穏やかに暮らしていた――?
「あっ! シモン先生!」
「ルナリア様。今、見送りに行こうとしていました」
元気に駆け寄ってくる姿は、ノエリアを思い出す。
星の紋が見えないようにするためか、額飾りをつけ、服はオルテンシア王国のものではなく、すでにアギラカリサのドレスに着替えていた。
オルテンシア王国のドレスと違い、軽めのドレスはルナリア様によく似合う。
「アギラカリサへ立つ前に、シモン先生にお礼を言いたかったんです」
「お礼ですか?」
「はい。私にとって、シモン先生は希望でした。いつも導いてくださり、ありがとうございました」
心から感謝しているのだとわかるくらい深々と頭を下げる。
「お礼など……」
お礼などいいから、ここにいてほしい。
もちろん、そんなことは言えない。
ルナリア様が女王にならないと言ったのは、十二歳のこと。
なぜかと問えば、レジェス殿下に恩を返したい。そばにいたいと言った。
――夢を叶え、次の場所へ旅立つのですから、喜ぶべきことです。
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