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第四話 幸せな時間を返して
謙太が電車に轢かれて死んだという一報は私が会社についてからだった。
いつも乗る駅で人身事故があって電車が止まってしまったのだ。
しかたなしにバスで出勤したのだが案の定バスに電車の客がなだれ込み会社には一時間遅れで着いたのだ。
謙太は無事電車に乗れたのだろうか。メールをしても返事がない。
きっと会社について時間を気にしないわがままなお得意様にニコニコしているんだろう、彼の仕事している姿は知らないけど同じように微笑んでいるのだろう、誰に対しても優しんだろうって。
バスの中では
「こんなくそ混む時間帯に人身事故かよ」
「クッソ迷惑」
「はぁ。商談間に合わなかったらそいつに慰謝料もらわないとって……死んじまったらそいつにはもらえないか」
「そいつの家族が払うんだろ。あー家族可哀想。損害賠償億単位じゃないの」
という会話が嫌でも聞こえてくる。不謹慎すぎるが他の人たちの人生を狂わせたらそれはそれでいけないことでもある。
みんな首を垂らしてスマホを見ながらなにか文字を打っている。きっと同じような会話やつぶやきをネット上でしているのだろう。
私は上司に電車が止まりましたと連絡して部下数人に業務の振り分けのメールをした。
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