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「白沢さぁん!」
身体が動かない。叫ぶのはたしか、えっと……私と同い年で派遣の大城さん。おかっぱでぱっつんの地味だけど仕事ができる彼女。
彼女が私の胸を強く押す。少し休憩時間に話したけど、もともと看護師さんだったらしい。
あぁ、心臓マッサージ? 息を口に入れられた。痛い。痛い。そんなに強く胸を押さえないで。
人だかりができている。そんなに見ないで……。
「救急車呼んだけど、例の人身事故で道路混みあってるって。だから遅くなるから措置してくれって。大城さん、AED操作できるかね」
「はい、任せてください。出来るだけ女性社員だけで作業します。女性の皆さんは壁になって!」
大城さん、こんなに大きな声を出したことがあったっけ。意識あるのに体が動かない。
「白沢さん、最近リーダーになってから欠員増えたから無理して仕事してたもの」
「くも膜下出血かしら」
女性社員たちが私を取り囲んで好き勝手ざわざわしている。確かに疲れていたかもしれない。寝る時間も少なかったし食事もろくに取れていない。
でもみんなは知らない、最愛の夫の謙太が死んだ一報を聞いてショックのあまり倒れたということを。
最愛の人を急になくしてしまったんですもの。
「白沢さんっ!!!」
私は服を脱がされて何か貼られている感触は感じた。
ふと見えた大城さんの制服のポッケに見覚えのあるクマのキャラクター。
あぁ、あのドラマのグッズだわ。予告でもちらっと出てきてグッズも人気だって。大城さん、好きだったのかしら。
……ねぇ、どこからやり直したいかなぁ。人生。
それよりも謙太はなぜ電車に轢かれたの? 自殺で飛び込みはあり得ない。それを知りたい。事故だったら止めたい。そしてあのお金の減少……。
あぁぁああぁぁぁぁっどこから戻ればいいのよ!!!!
とりあえず謙太が生きているところからっ!
と心の中で叫んだと同時に大城さんがAEDで電気ショックを流した。それと同時に目の前が一気に真っ白になった。
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