第一話 幸せな日々

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 私たち夫婦は仕事をそれぞれしている。 謙太は公務員、私はデザイン会社に勤めている。  毎朝仕事前にベランダで淹れたてのコーヒーを飲みながら外の景色を見て話し合うのが好き。雨の日も屋根があるから大丈夫。 高層階から眺める景色はとても良い。  私たちがこのマンションに住めるのも謙太の親のおかげだ。謙太の叔父がマンション経営をしていて謙太の父がマンションの費用の半分を出してくれたのだ。  正確には一括で払っているので謙太の父には全額を返さなくてはいけないのだが半分だけでいい、と言われローンも組むこともないから余計なお金がかからない。  本当にありがたいことだ。私たちが朝にこんな景色を見られるのなんて。 「梨花ちゃん、今月分今日持っていくよ。実家にもよりたいし」 「うん、いいよ。今日早上がりなんだっけ。ゆっくりしてきて」 「ありがとう、梨花ちゃんもゆっくりしてください」 「私いるとゆっくりできない?」 「何をいう、でもこういうことも大事だよね」 「そうよね」  たわいもない会話だ。コーヒーはあっという間に飲み終えれるはずなのに最後はぬるくなって少し苦味が増してもこの幸福な時間がそんなのどうでも良いと感じさせてくれる。  思えばここに子供がいたとしたらどうなるんだろう。同じようにまったりとコーヒーを飲む時間はあるのだろうか。  知り合いの話を聞くと余裕がなさそうだし。でも子供は欲しい。謙太に似た優しそうな笑顔を持つ子が。  謙太も子供が好きだから欲しい、ってここで話した。その時の笑顔もすごく良かった。  セックスはそう頻繁ではないけど互いの体調とその時の気分。謙太のね。  私はそんなにセックスは好きじゃないから。でも謙太は優しく、大丈夫? と聞きながら抱いてくれる。  荒々しさもなく、耳元で囁く声に私は心拍数は上がる。こんな快楽は今までなかった。 手慣れた感があるが反対に経験が浅く手荒な真似をされるよりかはいいかとそこは目を瞑るが彼との行為は苦痛には感じない。  でもできればなければいいとは思うけど彼とだからできる、そう思っている。  あとは自然に任せるだけ。私の職場は産前産後のサポートも他と比べれば手厚く、謙太の親も近くにいるから協力してくれると心強い。  しかし早く孫を、とかそんな雰囲気もないのはもうすでに謙太の上の兄弟たちが子供がいるからだろう。  不妊治療も経験した義姉もいるおかげなのか。そんな優しい人たちのためにも謙太との子供を早く、と思ってしまうほどだ。  
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