第十一話 そこつきたもの

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 結婚してすぐ一定額互いに多めに振り込んだ。冠婚葬祭だったり旅行だったり。  あ、じゃあなんの根拠を持って謙太は有給を取って旅行しようと言ったの? あの笑顔で……。自分の預金もなかったのに。  私はめまいで倒れるかと思ったが早々に義父母たちが葬儀を手配してくれた。やはり家族葬にすると。共同貯金が無いことを誰に伝えればいいのだろう。  謙太は何に使ったの?カード履歴も調べなくては……。ついでに着信履歴も。  手に持っていたと思われるスマホも粉々だったらしい、と家族で唯一謙太の遺体と対面した義父。  遺品であるカバンもぐちゃぐちゃの血みどろで中の財布はなんとか取り出せた。  ああ、どうすればいいんだろう。ここから。彼の遺骨はリビングに置いてある。  死ぬ前夜に彼とセックスをした。ちょうど良いタイミングだった。  義母に妊娠していないか? と聞かれたが首を横に振るとため息をつかれた。  悪気はないと思う。私も義母も希望を持っている。  ああ、昨日の行為で彼の魂は生きているのだろうか。  とは願いたいのだが死人に口なし。  聞きたいことは山ほどある。  妊娠もして欲しいが彼が生き返ることなんてない。  遺骨入れの横にある彼の財布、クレジットカード、通帳……まだ今日は日曜だから問い合わせができない。これからいろんな手続きをしなくてはいけない。  この部屋に関しては謙太の叔父が家賃を下げると言ってくれはしたがそれは申し訳ないと思っているけどすぐに見つかるのだろうか。  会社も旅行でなくて忌引きと共に使ったのだがその間に解決するのだろうか。  本当にこれで目眩起こして気絶して頭を打たず生きているのがすごい。  ……だって死ぬに死ねないから。  ピンポーン  エントランスから呼び出し。誰かしら。義父さんかしら。  画面を見ると違った。どこかで見た女性……私のオフィスにいた……えっと……。 「鷲見です」  そうそう、あの鷲見さんだわ。私の家をなぜ知っているの?  「はい……ご用件は……」  私は不思議に思いながらも返事をした。 「謙太さんにお焼香を」  謙太のことを知ってる? 鷲見さんが?
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