第十二話 原因

1/2

59人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ

第十二話 原因

 葬儀には大体の人が参列はしてくれたが都合で来れなかった人がここ数日訪れたことがあった。  だからお茶や菓子などは用意してある。線香の匂いが染み付いたこの部屋に会社でふと匂った彼女の百合のような匂いの香水が。 「実はお会いしたことがありますよね」  彼女も私のことを知っていてのか。名刺交換はしていなかったけど。まぁ私も彼女のことは一方的に知っていた。  しかしその時に感じた魔性性はなかった。メイクをしないその顔は泣き腫らしたであろう目の赤み。  机の上に花と遺影と骨壷しかない場所で手を合わせて目を瞑りそこから涙を流す。  だからなぜあなたは謙太の死に泣いているの?  「ありがとうございます」 「本当に謙太さんにはお世話になったので」  だから何にお世話になったというの。仕事の関係か、大学の関係か……。 「主人とはどういう」 「謙太さんとはお仕事でご一緒しておりまして、何度か会食とかで」  仕事つながり……か。  会食……確かに取引先とご飯行ってるとかいうけど。……別にやきもち焼かないけどな。 「私が営業をいきなり任されてどこも相手にしてくれなくて。そんな時にお会いしたのが謙太さん。彼は話をしっかり聞いてくれた」 「はぁ……」  私にも優しいけど誰にでも優しく微笑む謙太。この遺影の写真を探すために写真どれ見ても微笑んでいた。  この微笑みがいちばん良かった。 「彼からも色々教えてもらったり紹介してもらったりして仕事も順調に。助かりました」 「いえ……」  互いに仕事のことは伝わってくることもあるけど細かくは話したことはなかった。  もちろん彼女の存在なんて一言も聞いたことがない。  私はふと何か違和感を感じたが気のせいか。 「お仕事だけでなくて食事も美味しいところに連れて行ってくれて。まず健康じゃないと仕事も捗らないよって」  私たち朝練をして健康になってはいたがそれを謙太は彼女に言っていたんだ。 「本当に優しい人で。奥様もいるのに気にかけてくださって」  そ、そうよ。てか食事は二人きり? 「謙太さんが死んだのは事故でしょうか」 「今の所自殺でも事故でもないと。自殺だなんてあり得ない。悩んでいることもなかったし……これから子供をと」 「お腹に子供がいるんですか?」  鷲見さんがそういうが私は首を横に振る。でもまたわからない。事件前日の行為で……できるかもしれない。 「すいません……聞いてしまって。謙太さん  、子供が好きだって。でもなかなかできない。まぁまだ一年だしって」 「ええ、まだ結婚して一年目。ってもう直ぐ2年だけども」  すると鷲見さんがふふッと笑った。何、その笑い。 「できなかったのはあなたのせいじゃないんですか」 「えっ」  ひどい。 「それも死んだ原因かしら」 「そんなはずじゃない」 「嘘、自殺だなんてしない。謙太は」  謙太を呼び捨て? なんで……って私はその違和感に気づいた。彼女は時折お腹を撫でる。か、お腹に手を添えている。 「私のお腹の中に謙太さんの子供がいるの。それも彼は知っている」 「……!」  どういうことっ。謙太の子供が鷲見さんのお腹に?!
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加