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アイツは猪狩課長の夫のことだ。
「仕事の相談に乗るよって……いいところ連れられてお酒飲まされたが最後。気づいたら全裸でホテルのベッドの上で仰向けになってた」
「それって犯罪……」
私は青ざめる。そんなことはあってはならない。
「アイツ、親が元OBだし社長もお世話になった人らしくてさ。自分の息子が妻子いるのに生き遅れのわたしをレイプして子供孕ませたってバレたらやばいからわたしが略奪したことにしましょうって。」
そんなことありえる? しかもたしか慰謝料払ってるのに……。
「お金も奪われて、子供もいるわけだから離婚もできないし。この会社にいることが一番の逃げ場かな。子供はあっちの義母たちが前の子供達よりも懐くからってベタベタでさ」
そんなこと聞いたことなかった……。ずっと猪狩課長のせいだとか、それも会社内で噂が回ってた。
すると猪狩課長は立ち上がった。話を終える時はいつもこんな感じだ。
「あ、鷲見さん。気をつけた方がいいんじゃない?」
どういうこと?
「あなたのこと聞いてきたのよ」
「なぜわたしのこと……彼女のことは知りませんし」
「そうよね、だからなんで? って聞いたのよ。そしたら、白沢さんのご主人を知っててその奥様がどんな人かって」
……。
「彼女にはなんで? ってキツく睨んだけどフウン、て感じで」
なに……不倫相手の妻を見にきたってことかしら?
「あ、でてきたわよ」
と猪狩課長の目線の先に鷲見さん。今日も綺麗にツンと澄ましている。
わたしは心拍数が上がりながらも彼女を見つめる。
「白沢さん、あなたと少し話せてよかったわ。噂話色々回ってると思うけど、どう思うかはあなた次第、てことにしておくわ」
はっきり言えばいいじゃん。
「行ってらっしゃい、また落ち着いたらご飯食べようね」
猪狩課長の顔が少し切なさそうに見えたけどわたしは鷲見さんの元に行く。
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