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第十九話 見たことのないあなた
謙太は鷲見さんの件で一息ついたところだったのかハッとした顔をしていた。
「そのね、その」
とまた戸惑っていた。鷲見さん以外のことで何を隠していたのだろうか。
「なんだったら今度で良いよ」
私はそう言ったが謙太は首を横に振った。
「今のうちに言うよ」
私はいつも自分の話しかしてなかったし彼の話を聞こうともしなかった。それは自分のせいだ。
「……実は、僕。子供ができにくい体質なんだ」
鷹見さんも言ってた。でも嘘かと思ってたけど本当だったのね。
「子供のころの記憶だからあれなんだけどお医者さんが親にこの子は将来子供が出来ないかもしれないって言ってたんだ」
出会ったころも付き合った頃もそんな話を聞いたことがない。本人どころか彼の親からもだ。
「そういうの分かってて付き合って結婚したのは本当に申し訳ない!!!!」
謙太は私の前で土下座をした。すごいゴンと鈍い音がした。床に額をぶつけたのだろう。
「病院で検査して、こっそり治療しようと思って治療し始めたときに梨花ちゃんが親の治療費でお金使いたいって言って。今は治療や検査はストップしているんだ」
……あの時のお金の使い込みは治療費検査費だったってわけ?
「お金は使ったかい?」
だってあれは嘘だもの。使うわけないわ。
「……少しは使ったけど」
と言うなり謙太は私の手をつかんだ。
「知り合いの知り合いに子供が産めない男性も子宝が出来る民間治療があるって言われてて……そこでお金を出せば体は良くなるかもしれないって」
それって詐欺じゃん。まさか謙太、それに引っかかって大量にお金を使い込んでいたってこと???
それに気づかなかった私って。たしかに謙太はいろんな人にいい顔しちゃうし、ましてや自分の不妊が原因でだからそういうのにも藁にも縋る気持ちで手を出してしまったかもしれないけど。
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