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あまりにもキャラが違い過ぎる美濃里さん。両目から涙を流している。私はティッシュを渡すと彼女は思いっきり鼻をかんだ。
「あの子は本当にお父さんに似ちゃったのよ」
建築家の人だったとは言っていたが、結婚の挨拶の時、結婚式の時くらいしか会ったことがない。
美濃里さんは私に写真を見せてきた。謙太にそっくりだ、それは思っていた。
「……お母さんがね、いわゆる今でいう産後うつで謙太を産んだ後におかしくなっちゃってね。当時は産後うつって言葉がなかったからお母さんだけでなく私たち家族もとても困惑したわ」
産後うつ……猪狩課長や同期のママさんたちもそれは口にしていた。自分をコントロールできず子育てと仕事に板挟みになり物凄く思い悩んだというのもこの一週間のランチの際に聞いたばかりだった。
「どっちかといえばお母さんは怒りに現れる人でストレスを家庭で撒き散らしていたの」
「はぁ……」
どちらかといえば私の親は父が母にすごい当たっていた。仕事のストレスを。母はずっと泣いていた。その反対なのか、謙太たちの両親は。
「お父さんはお母さんの暴挙をニコニコしながら宥めていた。あんなにも酷かったのに……」
「殴られたりしたのですか?」
私は恐る恐る聞いた。私の父はよく私をげんこつで殴った。
美濃里さんは首を横に振る。
「身体的暴力はなかった……あったらとうに逃げられているのに。お父さんはずっと、ずっと……お母さんの暴挙に笑って……笑って……いまはほぼ別居。でも周りにはバレたくないから夫婦で出る必要のあるところは戻ってるけどね……ほんと、なんというか……」
そう言って両手で顔を覆う美濃里さん。私は慌てて横に座り宥める。なんてことを。
「……私や妹の清乃も辛かった。清乃は特に怖がって逃げるように今の夫と結婚した。私たちはお母さんの暴言にずっと耐えていた。でもお母さんは悪くない。どこにぶつければいいかわからないから。家族にならぶつけてもいい、それで外に行けばニコニコしたお母さんなんだから」
謙太の姉2人にまで。だから清乃さんはあんなにも怯えた感じだったのだろうか。
「でも謙太だけには優しかったのよ」
「……謙太さんだけ?」
「あの子もお父さんに似てヘラヘラ笑ってあとみんなを笑わせようとわざと面白いこと言ったり、戯けたり。謙太は私の救いだった」
なんということだろうか。あの彼の微笑みは……お母さんの暴力で沈みきった家庭をなんとかしようとして生まれたものだったのか……。
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