第三話 最期

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第三話 最期

 そんなこんなで半年は過ぎたのだろう。  生理は素晴らしいことに毎月しっかり来る。 「梨花、ごめんね。今日よろしくね」 「うん、いってらっしゃい」  同僚がPTAやらなんやらの会議が急に入ったとかで私に代わってほしいと言われたが急な会議なんてあるものか。  事前に分かっていたのだろう。いやそうじゃないかもしれないけども。いろんな人に断られて最後に私のところに来たんだろう。最初から私に言えばいいのにとか腹の中では思ってはいたがにこやかに送り出す。  同じチームでも二人の社員が妊娠したという報告を上司から聞き、しばらくつわりやら診察でチームから外れるとのこと。  他の部署から人を引き抜くのは難しいけど大丈夫かと言われた。  大丈夫じゃないけど私はハイ、と引き受けてしまったのもいけない。  生理痛は薬を飲んでも一時的に和らぐしかなくて眠いしおなかも時にいたくなるし急にドッと出てくる血液にひやりともする。  そんな感覚があの妊娠して離脱したあの二人の社員はしばらくそんなのはないのかと思うと羨ましい反面、悲しくなった。  妊娠はしなかったものの謙太とは変わらない生活を送っている。  いつも優しくしてくれる彼、そんな彼を見ていたらこの人を子供に取られたくないなぁって。だから子供のいない生活もありなんじゃないかなぁって。  そういう考えの方が楽、なのかもしれない。そうなんだ、これこそが幸せ。やっとつかんだ幸せ。私には子供がいなくても謙太がいれば幸せなの。と言い聞かせる日々。  しかし仕事量が増えてしまい夜は遅くに帰って朝も早く出ていく生活。  すれ違いとまではいかないがフレックス出勤の彼が寝ている間に出勤するようになった。  いつも寝ぼけた声で行ってらっしゃいと謙太。だから毎朝のコーヒータイムも土日以外はない。  夜は土日に作り置きした物を自分で選んで食べる。でも謙太が追加で一品作ってくれていて 「無理だけはしないようにね。明後日の朝は僕も早いので一緒に起きるからコーヒータイムしよう」  というメッセージを置いてくれるのだ。男性にしては珍しい。彼は少しロマンティストなところもある。  久しぶりに仕事前のコーヒータイム。正直毎朝一緒に起きて欲しいって気持ちはあったけども。  私が帰り遅くなって彼も仕事をして疲れて寝ていたのに私が布団に入ると体を密着してそのままセックス、てこともあったし。  以前だって私が疲れて先に寝てしまって寝坊しちゃったとき、謙太は怒らなかった。  同じように手紙で 「先に会社に行ってきます。無理だけはしないようにね」  と。なんて優しいのだろう。なぜ怒らないのだろう。  謙太は何に関しても優しい。怒ったところなんて見たことがない。  こんないい男性なんて他にはいない。
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