脱毛

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脱毛

地獄の始まりなのは知っていた。 手ぐすね引いて待っていた災禍たちは、いよいよと容赦なく降りかかる。 そうなる前からその押し潰されそうな不安に、毎晩悪夢を見た。 しかし、溺れかけながら泳ぐ毎日は、それを記憶する暇を与えてはくれない。 疲れ果てた。 心身ともに。 昨夜も悪夢のオムニバスを楽しんだ。 ひとつは元妻を軽自動車で送り、用事の間それを遠目に眺め、終わる頃迎えに車を付けると、何故か車には元妻と末娘。 僕は原付きバイクに乗って並走する。 たぶん、なんとか縋りたい気持ちを律する今の心境だろう。 これで良い。 彼女たちに突き落とされた地獄だ。 縋る相手を間違えちゃいけない。 もうひとつ、時々見る夢なのだが、髪を引っ張るとごっそり抜ける夢。 これは心身の疲労が原因という説がある。 髪が活力の象徴なのだろうか。 忙しさのなか、色んな事を考えては忘れていく。 忘れてはいけない事も忘れていく。 ついには、忘れる事すら、忘れる。 忘却。 今の僕には、それだけしかない。
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