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後日。若者の農園には、一人の植物学者が訪れていた。困り果てた若者が、博物館に調査を依頼したのだ。
学者はリンゴの木と、伸び放題の草とを見比べた。実をつけぬまま散ってしまった花を観察し、彼は呟いた。
「これは、受粉が上手くいかなかったようですね」
「受粉、ですか」
学者は頷いた。
「ここに茂っているのは、ギシギシやチカラシバなど、風で受粉する風媒花です。このような植物は、新開発の肥料が効いて、どんどん増えてゆくはずですよ」
揺れる草むらの中で、二人は夕空を見上げた。
「一方のリンゴは、虫媒花と言って、マメコバチなどの昆虫によって受粉します。ほかの生き物の助けがなければ実を結ばないのです。……しかし、こうも成長が早すぎると、ハチが花に触れる隙もないでしょうね」
製品開発部は、植物の育つ仕組を利用しているだけで、生き物の暮しぶりについては何も知らなかった。営業部は、世界中の農園がめちゃくちゃになっても、何喰わぬ顔で肥料を売り続けた。いい加減な対応が世間に知れ渡ると、ほどなくして、この企業は倒産してしまった。
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