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とある企業の実験室に、営業部の社員たちが案内された。今度売り出す製品の下見にやってきたのだ。
植木鉢の前に立ち、製品開発部の部長が言った。
「この土に、我が社の開発した特殊な肥料が混ぜ込んであります。百聞は一見にしかず。まずはご覧いただきたい」
そう言って、部長が粉のように細かな種を撒く。すると、またたく間に芽を出し、葉を茂らせ、可愛らしい白い花まで咲かせてしまった。営業部の社員たちはどよめいた。
「驚いた。まるで魔法みたいだ」
開発部長が得意気に言った。
「この肥料を与えれば、植物の成長を何万倍にも早めることができるのです。これはシロイヌナズナという花ですが、他の種子を用いた実験でも同様の結果が得られました。植物にしか効かない成分を使っていますので、この肥料で育てた野菜や果物を食べても、体に害はありません」
営業部長は、感心したように頷いた。
「この肥料を使えば、季節を気にせず、素人にも簡単に植物を育てられる。実をつけるまで何年もかかっていた果物でさえ、一日のうちに収穫できるではないか」
彼らは早速、この肥料を世界中に売り出すことにした。幾度となく繰り返された試験でも、欠陥は見つからなった。何もかもが順調だった。しかし、発売直後、思いもよらない事態となったのである。
「これは一体どういうことだ!」
営業部に一本の連絡が入った。耳を割るような怒声に、社員はたじろいだ。
「あんたらの作った肥料は、まるで役に立たない。果物がちっとも大きくならない上に、雑草ばかりが伸びるじゃないか!」
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