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同じような苦情が何件も寄せられて、営業部長も現地に赴くことになった。相手は、農業経験のない若者だった。
「リンゴを育てようと肥料を撒いたら、この有様ですよ」
彼の農園を一目見て、営業部長は目を丸くした。雑草が人の背丈まで伸びて、搔き分けなければ前に進めないほどだったのだ。
若者がうんざりした様子で話す。
「抜いても抜いても、ほんの数秒も経たないうちにまた生えてくるんです。これではキリがありません。どうにかして下さい」
雑草はこんなに元気よく伸びるのに、果物が育たないとはどういうことだろう。彼は肥料の開発には携わらなかったから、原因も、対処の仕方も分らない。
もしも品物に欠陥があったら、大問題になるだろう。せっかく沢山作ったのに、売れなければ赤字になってしまう。会社の信用も損なうはずだ。
「量が少くて、成分が実まで行き届かなかったのだと思います。肥料を更に足して、一ヶ月ほど様子を見て下さい」
彼はてきとうな説明をして、他部署にも報告しなかった。
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