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「ああ、うん。まあ気持ちはわからなくもないけどさあ。教師って、どうにも堅苦しい人が多いのは事実だし?」
でもねえ、と肩をすくめる奈央。
「マヤコ先生は違う、と思うんだけどね。あたしは」
「なんでよ」
「先生の前の学校の話聞いてた?毎日のように窓ガラスが割れてて、教室の生徒の半分が来なくてさ。来たと思ったら後ろのスペースでダーツ始めるような馬鹿が多かったっていうじゃん。そういう学校から転勤してきてみたらそりゃ、フツーに黒髪多くてみんなが席に座ってるうちの学校は天国みたいに見えると思うんだけど?それを、みんなの髪が黒くて素晴らしい、って言い方しただけじゃないの?」
「そりゃまあ、わからなくはないけど」
マヤコ先生にとって前の学校の話は笑い話のようなものらしく、授業の合間やホームルームの時間にちょこちょこと見にエピソードを披露してくれるのだった。例えば早弁してると思っている生徒の手元を覗いたらお湯の入ったカップ麺持っていた、とか(どこからどうやってお湯を入れてきたんだろう)。なんかがさごそ音がするなあと思ったら、虫かごの中に大量のGを入れて机の横にひっかけてた生徒がいただとか。
あとは煙草の吸殻が教室に落ちてて半ば学級会が発生したけれど、煙草を吸ったことがある生徒が多すぎて犯人の特定が不可能だった話とか。
あまりにも自分達が知る中学校の環境とかけ離れすぎていて現実感がなかったし、だからこそ面白いと思うのも事実。そんな、さながら世紀末みたいな世界かの学校から転勤してきたとあれば、雰囲気が違いすぎて先生からしても驚くことが多いのかもしれない。それはわかる、わかるのだけれども。
「そんなにモヤるなら、先生に直接尋ねてみればいいじゃん」
私の様子に、最終的に呆れ果てて奈央がデコピンをかましてきた。
「うだうだあたしに愚痴っててもしょーがないでしょうが。ほら、放課後とかいつだって話訊けるでしょ。さっさと解決してらっしゃい。先生の言ったちっちゃな言葉が反抗期だから引っかかってしゃーないんですーって」
「だから!反抗期とかじゃないってば!」
「いいっていいって。あたし反抗期幼稚園で終わっちゃったから羨ましいわー」
「どのへんが!?」
まったく、この友達ときたら。
私はため息まじりに廊下に視線をやったのだった。確かに、四月のこの時期は吹奏楽部もまともな練習が始まっていない。仮入部に訪れる一年生も減ってきた頃合いである。少しくらい部活を休んでも叱られないかもしれないが。
――だからって。……一体、先生になんて訊けばいいの。
なんだか素直に告げたら馬鹿にされそうな気がする。
黒い髪の毛が多くて素晴らしい、なんて――そんな先生のちょっとした言葉に、いつまでもイライラさせられてるなんて。
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