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「黒髪ってそんなにいいもんかなあ」
「なに?何の話い?」
半月ほど後の、休み時間。教室で、私は友人の奈央に愚痴を漏らしたのだった。
奈央とは同じ吹奏楽部に所属している。去年は別々のクラスだったが、今年は奇跡的に一緒になれた。まあ、うちの学校は三学年とも三クラスずつしかないので、同じクラスになる可能性はそれなりに高かったのだが。
「マヤコ先生が入学式に時に言ってたやつだってば」
机の上、額をくっつけてごろごろ転がしながら言う私。
「ほら、みんなが黒髪で安心したーとか言ってたじゃん?あれ、そんなにいいもんかなーって」
「何、黒髪じゃないといけないのかーとか。髪染めるのはそんなに不良なことなのかー的な?」
「まあ、ざっくり言うとそういうかんじ?」
うまく説明できないが、気持ちとしてはそんなところだろう。どうしてもモヤモヤしてしまうのである。そもそも、髪を染めるのが禁止、というのもわけがわからない。何で駄目なのだろう。そりゃ、社会人になったら髪の毛を染めていると仕事に支障を来すとか、それ以前に面接で落ちるなんてこともあるかもしれないが。学生のうちは、頭髪くらい好きにさせてくれてもいいではないか。
校則には、納得がいかないものも多い。
髪の毛の長さについては男女とも規定がなくなったが。未だに髪の毛を染めるのは駄目とか、化粧をするのが駄目みたいな項目が存在する。そういう校則があると、元々髪の毛が茶色っぽい子とか、化粧をしているみたいに見えるくらい肌の色が変わっている子とかが差別される原因を作るのではなかろうか。
そして何故、髪の毛を染めるのが不良の証拠みたいに言われるのかもわからない。
ちゃんと授業受けて、それなりに部活やって勉強して、人様に迷惑をかけなければそれでいいではないか。髪の毛を染めることで、一体誰に迷惑がかかるというのだろう?
「つまり」
私の言葉に、奈央はあっさりとのたまった。
「あかねは反抗期、と」
「ちょっとお、そういう言葉でさっくり片付けるのやめてくれるー?」
「嫌だって、実際そうじゃん。大体あんた、マヤコ先生の話ちゃんと聞いてた?先生、髪の毛染めるのが不良の証拠だなんて一言も言ってないのにさ、あんた脳内補完で勝手に捏造してんじゃん。髪の毛が黒くて安心したとは言ったけど、その理由も“老眼で目がちかちかするから”って言ってたでしょ?一理あると思うわけよ、あたしは。先生いいトシだし、あたしらとものの見方が違ってもおかしくないでしょ?」
「そりゃまあ、そうだけど……」
あんなのはジョークじゃないか、と私は腐りたくなる。仮に老眼で目がちかちかする、なんてのが本当だったとしてもだ。きっとそれが主な理由ではにと思うのだ。本当は“黒い髪の方が清純だから”とか“日本人らしいから”とか“不良っぽくなくて、真面目でいいから”なんて押しつけがましい理由ではなかろうか。
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