先生は黒髪がお好き。

4/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 *** 「素晴らしいわ!」  ところが。私が職員室を訪れると、マヤコ先生は喜んで私を生徒指導室へ案内したのだった。驚いたのはこっちだ。部屋を移したということは、他の先生や生徒に聞かれることなく、じっくり私と話をしようという態度であるのだから。  職員室の机には、彼女の仕事のためのものと思しき書類がたくさん積まれていたというのに。 「あたしが出した宿題によく気づいてくれたわね、斎藤さん。うんうん、先生は嬉しいわよ!」 「しゅくだい?」 「ええ。黒髪が多くてすばらしい、と言った私の言葉がひっかかったんでしょ?気になる子は他にもいるんじゃないかと思っていたわ。実際、貴女で四人目よ、私にその話を質問してきたのは」 「え、え?」  四人目。  まさか入学式のあの会話をしっかり覚えていて、どうしても先生に尋ねたいと思った奇特な人間が、私一人でなかったとは。 「結論を言うとね。私、髪の毛を染めてもいいと思ってるわよ。赤にしようが青にしようが黄色にしようがピンクにしようが、別にそれで不真面目だとかヤンキーしてるとか決めつけるつもりはないし」  でもね、と彼女は少し遠い目をして言った。 「それは、貴女が自分の力で、後の人生にまで責任を取れるならやっていいって話なわけよ。……前の学校にはね、いたの。自分で髪の毛染めてない子」 「え」 「親が、子供の髪の毛を染めまくってたの。その子に訊いたら、幼稚園の時からずっとそうだったんですって。お母さんが喜ぶから、なんとなく逆らえなくて髪の毛を染めたまんまにしてるって。……でもその子の髪の毛は、ちゃんとした美容院でやってなかったからなのか、結構傷んで酷いことになってたのよね。しかも、明るいピンクだったからすぐ根本からプリンになっちゃってたし」  驚いた。  確かに時々、子供の髪の毛を好き勝手にしてしまう親がいるという話は聞いていたが、まさか中学生になってもそういう子供がいようとは。  いやむしろ、幼い頃からそれが当たり前になっていたら、中学生になってもその常識を変えるのは難しいのかもしれないが。 「髪の毛を染めるのはお金がかかるし、維持も大変。取り返しがつかないくらい荒れててしまうこともある。……それらのデメリットを理解して、それでもなおお洒落の方が大事って結論が出せるなら……その上で高い美容院代を自分で払うというのなら、あたしはもう何も言わないわ。でも、髪染めている中学生の多くがそうじゃないのよ。親に染めさせられてるか、親の金で染めてもらってるのかのどっちかなのよね。……だから将来のことを考えるなら、あたしは手放しに賛成とは言えないわ」 「でも、その……」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加