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飼い猫を抱き上げたら思いのほか胴が長く伸びたので、どこまで伸びるのか試していたら町内を一周していた。 さすがに怖くなってきた。当の猫はのほほんと大人しく抱えられている。動物病院に行くときも予防注射をされたときも、まったく動じないほど温厚な子だ。猫に怒られることなく、このままどこまでも延々に伸びてやがて県境を越える可能性もある。 もう止めておこう。来た道を引き返す。 歩道に沿って猫の胴体が伸びている。ランドセルを背負った下校途中の女の子たちが、おそるおそるといった様子でいやに長い猫に触れようとしていた。小学校低学年ぐらいの二人組だ。 「やさしくだよ。ねこさんびっくりしちゃうからね」 「そおーっと。そおーっとだよね」 ちいさな手のひらで毛の先端をふわっと撫でる。こそばゆかったのか猫の身体がぶるんと揺れた。少女たちは互いに顔を見合わせてきゃっきゃと笑いあう。 透明すぎる光景だった。彼女たちの行き先に光あれ。立派な猫好きになって欲しい。 猫は呑気にあくびをした。 電柱を通り過ぎた先に、制服姿の男子高校生たちがいた。伸びた猫を見下ろしながら、ひとりがスマホを取り出す。 「ちょっと待ってこれ、撮ってばあちゃんに送るわ」 「お前のおばあちゃん猫好きなん?」 「そうそう。でももう年が年やから飼えんて言ってて。画像だけでも見せたろって」 「じゃあ俺も撮るわ。おばあちゃんに送ってあげて」 「ありがとうだけど、おんなじ画角で撮ったのはいらんかも」 「絶妙にちがうじゃん。ほら、模様とか」 「差分いらんねん」 「ちょうど切らしてたから助かるってなるかも知れんやろがい」
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