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「順番というものがあります。まずはお友達から、いえ、顔見知りから。わたしという人間が無害であると……そうじゃない、下僕として見込みがあるとわかってもらってからです。焦るな愚か者ッ!」
パァンッと音が響くほど強く、彼女は自分の頬を叩いた。
とても敬虔な猫吸人(ねこすいんちゅ)だ。
「うちの猫、それだけは嫌がるんでやらないようにしてます」
そう伝えると、女性は凍り付いたように動かなくなってしまった。しかし、抱えられている猫(本体)を見ると、すぐに背筋を伸ばした。
「危うく猫さまが嫌がることをしてしまうところでした。感謝いたします」
乱れた髪を耳にかけながら彼女は粛々と頭を下げてきた。
「我慢できて良かった。すんでのところで大罪を犯さなかった自分を誇らしく思います。己を律することが猫さまの安寧につながるのなら、我々はあらゆる欲望と向き合い振り回されない柔軟な心を会得しなければなりません。そう、猫さまのように」
気付くと、女性は座禅を組んでいた。
「すべては猫さまのために。猫さまに最大級の幸あれ」
そうして野生の猫吸人(ねこすいんちゅ)は悟りへの道を歩みはじめた。
彼女のこれからにも幸あれ。
なんとか帰宅して猫を廊下へおろす。
前脚を前に突き出し伸びをすると、俺をみあげて大きな声で鳴いてくる。
「うんうん。悪かったね。いつもより良いごはんをあげるから許してね」
台所へ向かう自分のあとを、小さな足音がついてくる。戸棚を開けて餌の準備をしているあいだ、猫は餌皿のまえにちょこんと座って待っている。
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