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「待ってくださいよぅ若旦那」
馬車の土煙をよけながら、追いかけてくる声に振り返る。
少しふくよかな体を揺らしながら走り寄ってきた丁稚の田丸は、木綿ガスリの着物の膝に両手を置き、はあはあと息をきらしながら涙目で僕を見上げた。
多くのひとで賑わう昼下がりの街中。
人力車や馬車がひっきりなしに行き交っているが、蒸気で走る自動車という乗り物もたまに見かけるようになった。
西洋風の建物や洋装の人物もちらちらと増えている。
それでもここいらは古い長屋も目立つし、商人は大半が着物姿だ。
文明開化による新と旧のアンバランスな融合。
今はそう言う不安定な時世だ。
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