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「若旦那目当てでお嬢様たちがおいでなのに。
肝心の若旦那が店にいないんじゃ、あっしが女将に怒られてしまいますよぅ」
情けない声をあげながら田丸が僕に取りすがる。
ぐいぐいと羽織の袖を引っ張られて、僕は大きなため息をついた。
本来僕は学生の身分だが。
休みの日は決まって店の手伝いを言いつけられていた。
それが不満なわけでも働きたく無いわけでもない。
呉服問屋の跡取りという立場から考えても、必要な経験だということは十二分に理解している。
ただ、今日だけは何と言われようが引けぬ用があった。
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