捕らわれの女

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「あのね、あたし、恋人がいるんですよ。 もうすぐ迎えに来るんです。そして村を出るの。 両親に結婚を反対されてね、駆け落ちしちゃうの。クロも一緒に」 「かき氷、食べてる場合じゃないでしょ、それ」 「夕方にしかバスが出ないんですよ。 そのとき、一緒にバス停に行きましょう。ちようどいいでしょ?」 「あぁ、はい」 なんだ? なにかが変だ。 駆け落ち、両親に反対されて、夕暮れのバスで。 「すみません、トイレをかしてほしいので、家に上がらせてください」 「いえ、いえ、それは......ごめんなさい」 「いやいや、トイレくらい」 「ダメなんです!」 そのとき、猫が部屋の奥へと走っていった。 僕も立ち上がって追いかけた。
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