人を殺せる女

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「日並さん、あんた魔界についてどのくらい知ってる?」 辰巳がタバコを取り出して吸い始める。 「数百年前に戦争が起きて廃墟となった、生き残った魔物たちは、 復興させる気もないまま過ごしている。 奴らは気まぐれに人間にちょっかいを出す。それは良いことも、 悪いこともある。人間に力を与えたり、身体を作り変えたりできる」 「それだけ知ってれば充分だ」 辰巳がタバコの煙を吐いた。 「直純さんは、なぜ魔界を行き来できるんです? そして赤塔映子を追っているのですか?」 「そうだ、駅から尾けてきた。朝になって出てくるまで外で待っていた」 「ひと晩中?」 「俺はヨトに身体を作り替えられている。それくらい平気だ。 だけどな、映子には逃げられた。ラブホテルの出口付近にいたら、 別のところから逃げられたらしい」 「なぜ、赤塔映子を?」 「殺そうとしている」 「なぜ?」 「復讐だ、孫を殺されたんだ」 「孫?」 「良い子だった、いや、普通の男の子だった、特別に優れているとか、 そんなことはなかったが、息子夫婦は良い育て方をしたほうだった。 たとえばバスに乗って目的地で降りるときに『ありがとうございした』と、 元気な声で言えるような子だった。だけど映子に殺された。 公園のベンチに水筒をぶつけて遊んでいたら、それがうるさいと。 それだけの、それだけの......たったそれだけの理由で殺された!」 辰巳はタバコをテーブルに押し付けた。
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