人を殺せる女

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「その話しなら、昨日、聞いた。車道に自ら飛び込んで死んだと。 どうして彼女が殺したと知ってる?」 辰巳は二本目のタバコを取り出した。 火を付けながら記憶にも火を灯す。 孫の墓に花を添えてタバコを吸っていたときに、ヨトに会ったことを。 「あ、映子に殺された子だ。水筒くらいで殺さなくてもねえ」 「は?」 ヨトは経緯を話した。 身体中が震えた。 墓の前で四つん這いになった。 なんだって?水筒をベンチにガンガンと?それだけで? ずっと親の不注意の事故だったと思っていた。 それで何度も母親を責めた。 それなのに、それなのに......。 「テウスのことは元から気に入らなかったんだ、手伝うよ」 それが二ヶ月前だったそうだ。 「辰巳は俺が作り替えて人間らしさを取り除いてる。 食べない、眠らない、排泄しない。そうして昨晩はラブホテルから、 出てくるまでずっと待ってたわけさ」 ヨトが両腕を伸ばしながら言った。 なんという執念だろう。 映子を殺す為に、ひと晩中、待ち構えていたのだ。 僕はスマホを取り出した。 映子からのラインが、先ほどとは違う感情で読めていた。 「タバコの味だけはするんだよなあ」 掃除をしないまま荒れた室内の床に、辰巳はタバコの灰を落とした。 「昨夜も待ってるあいだ、タバコを吸ってた。やっと殺せると思ったのに」 ふと見るとカウンターの奥にも、タバコの吸い殻の山が見えた。
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