人を殺せる女

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それを見ていた僕に気づき、女性が振り向いた。 そして近づいてきた。 「なにをしたか、わかる?」 低めのクールな声だった。 「なにかしたってこと?」 僕は聞いてみる。 「キレのある返答ね、そういうの好きよ、だからおしえてあげる。 殺したのよ」 真っ赤な口紅の似合う真っ白な肌に整った顔立ち。 その顔の口角が上がった。 「殺した?」 中年男性のほうをみてみる。 座り込んでいたのが倒れ込んでいた。 通行人たちが気になって視線を投げかける。 やがて一般人か駅員が「大丈夫ですか?」と、声をかけるだろう。 「もう死んでる。死因は心臓麻痺で片づけられるかな。 普段は、もっと違うやり方で殺してる」 ザワザワと大勢の声がする中で、女性が非現実的なことを言っている。 「あなた、時間ある?」 女性に言われた。 「え?うん」 「なら一緒に来て」 「え?どうして?」 「可愛い顔してるから気に入った。あなたは殺さない」 女性に腕を掴まれて、僕は目的とは違うホームへと階段を上がった。
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