映子という女

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「父さん、お客だよ、今夜は泊まるって!」 よくよく考えると金をカードしか持っていない。 そのとき、シャツの胸ポケットで小銭のぶつかる音がした。 ボール遊びをしていたときは無かった筈のコインが入っていた。 「あの、宿代って、これで足りるかな?」 「うん、三日くらい泊まれるよ」 宿にはあまり見えない二階建ての家だった。 「いらっしゃい、さあ、どうぞどうぞ、息子が世話になりまして。 ゼーノの父です、こっちは女房」 どちらも黒髪で茶色の目の夫婦だった。 「どうも、厄介になります」 「お兄さん、不思議そうな顔してるね。俺は捨て子なんだよ」 「あ、いや、ごめん」 「いいんだよ、俺が変なんだから」 「俺らにとっては大事な息子です。こうして客までくれる。 さあ、部屋へご案内します。どうぞ、二階です」 「お邪魔します」
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