映子という女

67/74
前へ
/273ページ
次へ
「映子、君の罪の償いは終わったよ」 牢獄の扉が開いた。 「日並くん、これ......」 映子が鉄の棒を握りしめていた。 「鉄格子が一箇所だけ外れて落ちたのよ。 私はね、これの先端を磨いた。磨き続けた。 牢獄にいるあいだ、ずっと。そしたら、こうなった」 棒の先が鋭く尖っていた。 「日並くん、私をこれで殺して。私、日並くんに殺されたい」 「映子、ダメだ、映子!君は言ってたじゃないか、 『私はしなない』って」 「日並くんが愛してくれたから、私は殺人者でいられた。 そんな私を消し去れるのは、日並くんだけ」 「映子!僕は映子を失いたくないんだ!」 「どこまでいってもワガママなのね」 「どこまでいっても、一緒にはなれないのか......」 「なれた、ちゃんとなれたじゃない」 「映子......」 僕は映子の美しい顔を見るために涙をぬぐった。 そしてキスをした。 キスを交わしながら鉄の棒を受け取った。 唇と唇で愛し合いながら......。 鉄の棒の先端を映子に突き刺した。 白いワンピースが血に染まり、唇が離れた。 映子が笑った。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加