映子という女

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小さかった新宿駅が改築されて広くなった。 人がザワザワと行き交うようになった。 僕は頭上の表示を見ながら14番線のホームを探す。 そのとき、大き目のトイレの壁にいる女性と中年男性を見つけた。 ショートカット、切れ長の目、真っ赤な唇、細い身体。 僕は近づいてみた。 「西口は反対側ですよ?」 女性が言っている。 「そうですか、ありがとうございます」 中年男性が礼を言って去っていく。 僕はみつめ続けた。 女性がようやく僕に気づいた。 「あなたも道がわからないの?」 真っ赤な唇が動いた。 「いいえ、もう道は決めています」 「そう、なら良かった」 女性が軽く手を振って去っていった。
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