人を殺せる女

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カフェテラスで映子はブラックコーヒーを飲みながら言った。 「私だって、努力はしてるのよ。ジムに通って、 バランスの良い食事を取って、肌と髪の手入れをして。 髪ね、ロングにしたいけどテウスがショートにしろって」 「でも、顔立ちは持って生まれたものだわ!身長だって!」 風子はパフェを平らげている。 魔物に売られた娘。 その人生でさえ風子には憧れの物語だった。 「そのテウスって人、王子様みたい?」 「綺麗な顔だしスタイルはいいけど、王子っぽくはないわね」 「それでも素敵......」 風子は自分が嫌だった、好きになれる要素が無かった。 ラーメンやパスタやスィーツ、太りやすい食べ物ばかり好きで、太った。 その身体の無駄な贅肉が憎らしかった。 それなのに食べるのをやめない自分にも腹が立った。 食べることで、お金を消費する、良いことは何もない。 体重は増やすのは簡単だが、減らすには時間がかかる。 お金は使えばすぐなくなるが、貯めるには時間がかかる。 わかっているのに、生活を整えられない。 おまけに生まれつき容姿がいいほうではない、頭もそんなによくない。 そこそこの大学に進学して、食べて消費して必死にバイトして食べて消費。 他者には体型を中傷される。 『まだ食べるの?』『そんなんだから太るのよ』という言葉だけではない。 街で自身に投げかけられる視線には『太ってるなあ』が、聞こえた。 何の為に生まれてきたんだろう。 人が幸せになるのをみて、自分の不幸を知る為に生まれてきたのか。 そんな風子にとって、映子は理想そのものだった。 整った顔立ち、痩せすぎない均整の取れたスタイル、美しい顔。 一緒に銭湯に行ったことがあるが、身体に傷跡ひとつなかった。 ついでに言えばカラオケに行ったら歌が上手かった。 魔物にとらわれなければ、どんな人生だったのだろうか? 母子家庭で貧しい暮らしをして、苦労して生きていたのだろうか? いや、どこかで幸せを勝ち取れる人生だった筈だ。 根拠なく風子は、そう思った。
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