人を殺せる女

38/85
前へ
/273ページ
次へ
「いいわよ」 渋谷のスクランブル交差点が見下ろせる店で、映子と会った。 「一緒に暮らしたい」という言葉に、映子は容易く了承した。 「漫画のキャラみたいね」 映子が言った。 「日並くん、いつも同じ服を着てる」 「人間じゃないからね」 「そうみたいね。殺人をけしかけた女と暮らしたいなんて。 日並くん、いつでも動揺しないのが人間っぽくない」 「まあ、そうだね。さすがに今回はショックを受けてるけど」 辰巳の本気度は、わずかな時間でも伝わってきた。 命をかけて命を捨てたのだ。 たったひとりの男の子の命の為に、あれだけ動ける男がいた。 なら、映子の殺してきた人間の近しい人間たちは、どうだ? 映子のせいで死んだと知ったら、どうなるのだろう。 幼い女の子の無垢な残酷性のままで人を殺す映子には、殺した数の 何倍もの憎しみがあるのだ。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加