人を殺せる女

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映子は父親が誰かわからない。 母親が娼婦をしていたとき、相手の誰からしい。 産んだのは避妊に失敗して仕方なくだった。 育児は親戚に押し付けてバーで働きながら客と寝て金を取る。 そんな生活を続けていた。 親戚は母親がくれる金を目当てに育児していた。 誰も映子に愛を与えてはくれなかった。 欲しいものを与えてはくれなかった。 ものごころついたときから、映子は不満だらけだった。 映画を観に行きたい、動物園に行きたい、遊園地に行きたい。 お金のかかることは全部がダメだった。 甘いものがたくさん食べたい、作っても買ってもくれなかった。 「テウスが現れたのは、そんな頃だった」 映子が遠い目をした。 黒い鉛筆みたいだとテウスを思った。 細長くて真っ直ぐで。 映子は黒い鉛筆を使っていた。 アニメのキャラの柄の鉛筆を、テウスが買ってくれた。 とてもとても嬉しかった。 他にも文具道具を買ってくれた。 ノートも含めて周囲が華やかになった。 甘い食べ物がたくさん食べられた、フリルのついた洋服も着れた。 「外に出てはいけないよ」 なんでも欲しがる映子にとっての、ひとつの不満がきた。 それが母親のせいなのだと知った。 売った?私を売った? それで、ここまでの贅沢が叶った。 嬉しいけど、それとこれとは別のこと。
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