人を殺せる女

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「外は危険がいっぱいだからね、大人になるまで出てはダメだ。 大丈夫、勉強は俺がおしえてあげるし、ゲームも漫画も本もDVDも、 なんでも欲しいものを買ってあげる」 「そんな生活、いやよ」 肩先で切りそろえている髪を揺らして、そっぽを向いた。 「遊園地や動物園になら、連れて行ってあげるよ。 でも、言うことを聞かなきゃならないんだ。 お母さんと約束したからね」 「お母さん?お母さんのせいなの?」 母親は豪華なワンピースを持ちながら眉をひそめた。 「映子、贅沢な暮らしがいいでしょう?そうするには、ちょっとくらい、 我慢が必要なのよ。お母さんも家にずっといるのよ。 もう寂しい思いはさせないのよ」 「でも、いや!」 「映子ちゃん、俺が『力』をひとつ、あげるよ。それでかんべんして」 「力?」 「なんでもいいんだよ、重い物を動かせるとか、冬に花を咲かせるとか」 「人を殺したい」 「え?」 「人を殺せる力がほしい」 「いいよ、あげる」 男がしゃがんで、映子の小さな額に右手の手の平をかざした。
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