人を殺せる女

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映子は運動と称して近くの公園には連れていってもらえた。 しかしテウスと二人の生活に慣れてきた映子にとっては、外の世界は うるさいものと感じるようになっていた。 親子連れ、うるさい。 親も子もうるさい。 そう思っていたときだった。 鉄製のベンチに水筒をぶつけている男の子がいた。 なんのことはない、単なる遊び心だ。 砂場を小さなシャベルで掘ったり、ブランコを漕いだり、滑り台を 上る子供たちの声が響く。 その中で規則的にガンガンとステンレス製の水筒と鉄のベンチとが ぶつかる音がしている。 「うるさい......うるさい、うるさい、うるさい!」 映子は男の子のところまで行って、右手の人差し指の爪で額を突いた。 「なにすんだよ!」 「音がうるさい、なんの為に水筒をぶつけるの?マナーが悪い」 「関係ないだろ、ぶつけて悪いかよ」 「悪いわよ」 母親の手に引かれて公園を出ようとする。 男の子は手を振りほどいて車道へと飛び出した。 車にはねられた。
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