捕らわれの女

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映子は話しだした。 誰を殺していったのかを。 母親、好きになれるものが何も無かった、殺した。 それから先、テウスに道徳観念を教えられた。 社会のマナーもおしえられた。 人に迷惑をかけてはいけない、ゴミを外で捨ててはいけない。 守らない者は殺した。 それはいけないことだからだ。 吸っていたタバコを火を付けたまま捨てた男を殺した。 酔っぱらって大声で合唱していた大学生のグループを殺した。 コンビニで他人の傘を盗んだ女を殺した。 万引きした主婦を殺した。 そうして正義感ぶって殺していった。 それがいつしか個人の感覚になっていった。 うるさい、殺した。 うざったい、殺した。 そんな頃に風子に会った。 風子を中傷した相手を殺した。 風子が望む相手を殺していった。 それから......。 何人なのか、おぼえていない。 顔も、おぼえていない。 開き直ってからは気まぐれに殺した。 店で肩がぶつかったけれど謝らなかった。 その女を殺した。 スマホで音楽を聴く音が漏れて雑音を鳴らしている。 その男を殺した。
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