セカンドカミング

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セカンドカミング

 人生でいちばんのイベントは出産であろう。別れてしまったが、僕の元奥さんは僕との子を四回も産んでくれた。 お疲れさまです。  三人目、長女の出産は助産院だった。家族で泊まり込み、四度のなかでいちばん良い出産だったと思う。  助産師さんは、月を基準に「満月だから」と正確に妻の出産時刻を予測した。家族みんなが見守る中、全幅の信頼のもとリラックスして出産に臨む奥さん。安産だった。 「ここで産んで良かったあー!」直情的な奥さんが叫んだ出産直後。感動のワンシーン、自然と助産師さんに取り上げられた長女の方を見やるその時、僕には見えた。いや、見えていた。長女が取り上げられる、そのほぼ同時に放たれた大きめのどんぐりを。  しかし、僕は怯んだ。感動のワンシーンだ。 「あ、うんこ」とか言って取り去り場を繋ぐ度量は僕には、ない。  するとそれを察したのか、まるで安っぽいドラマでザザザって場面切り替えのギミックが使われたかの様な早業で、助産師さんが物を掴んだ。  怯んだとはいえ、それは伸びつつあった僕の手とコンマを争った。近くに逆がパカッと開いていたのは言うまでもない。  より自然分娩に近い出産を、とはいえ涙ぐましい営業努力を目のあたりにし、僕は心の中で叫んだ。 「ここで産んで良かったあー!」  その時は、きっとふたり、ひとつだった。
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