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うわーーーん
うわーーーん
暗い部屋の隅。うずくまって泣いている子がいる。涙を拭うこともなく、ただただ泣きわめいては感情を吐き出している。
その子は手にうさぎのぬいぐるみを握っていた。ぬいぐるみは左手をつかまれたまま、無表情に空を仰いでいる。女の子を慰めるでもなく、ただ仰向けになって虚空を見つめている。
・・・数刻経っただろうか。
女の子はまだ泣いていた。
ぬいぐるみも変わらず天井を見つめている。
いや、よく見るとぬいぐるみの首が切れかかっていて綿がはみだしていた。ぬいぐるみのプラスチックで出来た目玉は、やっぱり生気がなかった。
女の子はぬいぐるみを左手に握りしめて大声で泣いている。
私は部屋の外から、暗がりでうずくまり泣きじゃくっている女の子を見ていた。
部屋に入ることもなく、声をかけることもなく、ただ女の子を見つめていた。
まるで録画された部屋をリピート再生されているかのような、変わらない情景。
暗いはずの部屋も、なぜか私にははっきりと様子が分かった。
ああ、あの女の子は私だ。
自分ではどうしようもない理不尽に、生まれて初めて襲われた記憶。
社会の洗礼というには厳しい出来事。
その痛み、その苦しみ、その怒り。
はっきりした言葉では表せない、ごちゃ混ぜな感情を抱えた幼い自分だ。
今でも夢を見るこの情景は、私の心に棘として刺さったままだ。
ストレスがかかると、必ずといっていい程よく見てしまう夢。
克服したい記憶。
私が私である根っこの部分。
いつかは部屋に入って慰めたい。
私が私であるために。
いつか。
必ず。
終わり
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