2.縁談

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2.縁談

 その頃、バーニック伯爵宅では、バーニック伯爵とその夫人がモニカの今後について話し合っていた。  バーニック伯爵夫人とは言っても、モニカにとっては継母(ままはは)に当たる。  モニカの母が一人娘のモニカを残して15年前に病死してから、バーニック伯爵家へ迎え入れられた後妻だ。  バーニック伯爵は男の子を欲しがっていたが、この後妻との間に生まれたのは結局女の子一人、モニカの異母妹に当たるメリッサだけだった。 「旦那様。サスマン侯爵家のアルベルト様が結婚なさったようで、モニカが荒れているんですって」  バーニック伯爵夫人は人目を(はばか)るような言い方をした。  バーニック伯爵も頭を悩ませていた。 「モニカはちっともアルベルト殿のことを忘れておらんようだ。まったく、いくら遠縁とは言え、あんな者(アルベルト)を受け入れなければよかった。(わし)は、モニカと結婚させてバーニック家を継がせるために、わざわざ妹の元からフランクを連れてきたんだぞ。なのにモニカはちっともフランクとの婚約を承知せん!」  バーニック伯爵夫人は、伯爵の『伯爵家を継がせる』という言葉に一瞬(まゆ)(しか)めた。しかし気を取り直すと猫なで声になった。 「旦那様、モニカはアルベルト様を(した)ったまま一生独身で暮らすと言っております。このままではフランク様との縁談はさっぱり進展しないんじゃないですか。もうフランク様にはメリッサを(めと)らせて爵位(しゃくい)を譲ればよろしいでしょう」  バーニック伯爵は少し(うな)ってから(うなず)いた。 「まあ、爵位(しゃくい)の方はそうだな……。姉を差し置いて妹では少々人目がと思っていたが、もうモニカも18だものな。ここまで分からず屋では(わし)(かば)いきれん」  バーニック伯爵夫人は「そうでしょう、そうでしょう」とほくそ笑んだ。 「幸いメリッサはフランク様を好いているようですし」 「ほう」  バーニック伯爵は目を細めた。 「ならフランクの気持ち次第(しだい)だな。『モニカの婚約者な』と言い含めていたのにさっぱり話が進まんから、あいつには悪いと思っていたのだ。せめてもう一つの『バーニックの爵位を()る』くらいは守らんとな」  バーニック伯爵夫人は嬉しそうに微笑んだ。  しかしバーニック伯爵は急に父親顔になった。 「とはいえ、モニカの方だって『一生独身で暮らす』なぞ許さんぞ」  バーニック伯爵夫人は機嫌(きげん)がよくなっていたので、 「そうですわね。でもアルベルト様が(かな)わぬとなっては……」 と(つぶや)いてから、少し意地悪な顔になって、 「まあもう少々強引でも、気軽には帰ってこれないような遠いところに、さっさと()ってしまったらいかがですか?」 と言った。 「ふむ。遠いところか……」  バーニック伯爵はまた思案顔(しあんがお)になった。 「(わし)懇意(こんい)にしているグリーソン男爵なら少々融通(ゆうずう)がつくかもしれん。確かご子息がいるはずだ」 「ああ。マイルズ・グリーソン様ですわね!」  バーニック伯爵夫人はぱっと顔を明るくした。  バーニック伯爵領から遠い、王都からも遠い、グリーソン男爵領。  あまり社交界に出ない家だから子息の顔は思い出せないけれど、何を()(ごの)みしているのか、はたまた女性に相手にされなかったのか、マイルズ・グリーソン男爵令息には女性の噂はあまりなかった。  ……何より、メリッサとフランクと結婚させるには、モニカをさっさと追い出さねばならない! 「旦那様、そのお話とっても良いと思いますわ」  バーニック伯爵夫人はにっこりと笑った。 「すぐさまその手筈(てはず)を整えましょう」
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