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6.一方その頃、アルベルトは
「旦那様。マイルズ・グリーソン男爵令息からのお手紙ですわ」
サスマン侯爵家のアルベルトは、妻からマイルズの書状を受け取った。
急にアルベルトの脈拍が速くなった。
あの日、知人のマイルズが頬を紅潮させウキウキしながらモニカとの縁談のコツを聞きに来た時から、アルベルトはずっと重い気持ちで毎日を過ごしてきた。
万が一モニカが結婚を受け入れてしまったら、モニカは本当に手の届かない人になってしまう。
(この手紙は自分の愚かさを確認するためのものだ。読まねばならない。)
アルベルトは頭を振って雑念を追い払うと覚悟を決めた。そして息と吸い込むと、かさっと手紙を開いた。
そして、飛び込んできた文字に、心の中でガッツポーズした。
『婚約には至りませんでした』『助言いただいたのに申し訳ない』
よし。首の皮一枚つながった。
アルベルトが手紙を食い入るように眺めているので、アルベルトの妻が「あなた?」と訝しんだ。
アルベルトは視点の定まらぬ目をしていたが、やがて何かを吹っ切ったようにふっと妻の顔を見た。
心配そうにアルベルトの顔を覗き込んでいた妻が、何かを察した顔をした。
「旦那様、今がその時ではございませんか?」
妻が柔らかい口調で言った。
「それは……」
アルベルトは躊躇っている。
「何を躊躇ってらっしゃいます。期を逃せばもっと後悔なさいますよ。いろいろ嘘ばっかりだと怒っていらしったのはあなたでございます」
妻は諭すように言った。
アルベルトは言いにくそうに続けた。
「しかしそれはあなたに迷惑をかけることになる。やっとあなたはこうして平穏な日々を……」
「これは契約結婚だと申しましたでしょう!」
妻が大きな声を出した。
「私たちは同志です。もう。シャキッとなさいませ!」
アルベルトはビクッとした。
妻の目を見ると、妻は晴れやかな顔をしている。
「私の方も実は準備は整っておりますのよ」
アルベルトは驚いた。
「そうだったのか!」
「ええ。ですから気兼ねなく暴れていらっしゃいませ」
妻は力強くアルベルトの背中を押した。
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