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7.再会
さて、マイルズを追い返した次の日、今日も相変わらずサフラン畑で雑草抜きに精を出していたモニカは、屋敷の家令が息を切らして飛んできたのを見て、怪訝そうな顔をした。
家令はモニカの前で一礼すると、息を整える前に、
「アルベルト様がいらっしゃいました!」
と告げた。
「は!? ア、アルベルト!?」
モニカは一瞬ポカンとした。
しかしその顔つきはどんどん険しくなり、最後には睨むように家令を見ると、
「もう奥方がおられるアルベルトがわざわざ私に何の用です?」
と言い放った。
「それは伺っておりません。しかし、もうじきにこちらに来られます」
家令は答えた。
するとすぐさまあたりが少し騒がしくなって、アルベルトが従者を従えてこちらにやって来るのが見えた。
「本当にすぐじゃないの」
モニカはアルベルトの姿を認めると、家令に文句を言った。
「申し訳ありません。止めたのですが、アルベルト様は『無礼は承知』と」
家令は冷や汗をかきながら言い訳をした。
しかしモニカは家令の言葉は聞いていなかった。
瞬きもせずただじっとアルベルトを眺めていた。
「モニカ!」
アルベルトはモニカに駆け寄り思わず声を上げた。
「ずっと会いたかった」
……会いたかった?
モニカは不審に思った。去っていったのはそっちでしょ?
「アルベルト様。今日は何の御用? マイルズ様のこと? その件はとっくに御破談。何の弁解もいりませんわよ」
「アルベルト『様』だなんて他人行儀な言い方しないでくれ」
アルベルトはムッとした顔で言った。
「あら。だって3年も会ってませんのよ、もう赤の他人だわ」
モニカはわざとつっけんどんな言い方をした。
「赤の他人ね。そうかもしれないな。この3年であなたはたいそう美しくなった。別人のようだ」
「まあ! そんなことを言うの! あなた、本当に残酷ね!」
モニカはいっぺんに丁寧な物の言い方が消し飛び、辛辣な言葉遣いになった。
「私を捨てて行ってしまったくせに!」
「捨てて行ったとはまるで私が悪いような言い方じゃないか」
アルベルトは憤慨した。
「迷惑しているから出て行けと言ったのはそっちでしょう」
「はあ!?」
モニカは頭を殴られたかのようなショックを受けた。
「何それ!? 誰からそんなことを!?」
アルベルトは急に眼を鋭くした。
「あなたの義母上様に。従弟と結婚させ爵位を継がせるのは決まっているのに、私がいてはモニカの決心がつかず、モニカが毎日思い悩んでいると」
モニカは首を大きく横に振った。
「その話、ぜっっったいに、あり得ないわ! あの人は私を追い出したがっているもの。メリッサに爵位を継がせたがっているわ。マイルズ様の件もあの人が首謀者よ。あの人からしたら、あなたのことは大歓迎のはずよ!」
アルベルトはハッとして、モニカの瞳をじっと見た。
モニカもアルベルトをキッと見返す。
それからアルベルトは頷いた。
「確かに変な話だったのだ。私が身を引けば従弟との結婚が纏まると聞いていたのに、3年もその話が出ないうえ、急にマイルズ殿の話が浮かび上がったものだから」
それからアルベルトはふっと地面の紫色の花に目を落とした。
「……これは、サフランだね? バーニック家のサフランは王都でもよく噂に聞く」
「そうよ」
モニカはふんっと鼻を鳴らした。
「昔大好きだった男の子がくれた花なの。思い出とともに大事に育ててきたわ。だけど、その相手が結婚したという話を聞きまして。焼き払ってしまおうかと思っているところよ」
ぺかっと光る紫の花がモニカの足元で風に揺れた。
サフランの花からは赤いめしべが顔をのぞかせている。
モニカはそのとき、はっと気づいた。
「分かった。あいつだわ」
アルベルトも頷いた。
「ええ。バーニック伯爵夫人からと私に言付けたのはあいつです」
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