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①創作について
●アズマ:まずは創作について、聞いていきたいと思います。乃上さんの作品は、じわりじわりと物語の世界に引き込んでいく巧みな文章が特徴だと思います。このあたり、何か意識していることはありますか?
○乃上さん:自分ではあまり意識せず書いているので、これらは後付けの理由になるかもしれませんが……。
私の文体は淡々としているとよく言われるので、ホラーを題材にすると、じわりじわり知らないうちに引き込まれていく感じに繋がっているのかもしれませんね。
また、妄想コンの場合、8000字にまとめる必要があり、となるとオープニングからラストに向けた雰囲気づくりをしておかないと間に合いません。「あ、これはなんだか禍々しいぞ?」でもいいし、ラストでどんでん返しがあるなら、逆の雰囲気で始めてもいいし…。
特に私のホラーは見えないものへの畏怖、得体の知れないものへの恐怖を描くことが多いので、書き出しから徐々に違和感や不穏な空気を提示して、早めに読む方の興味や恐怖心を刺激しておかないと、ラストが中途半端な印象で終わってしまいます。
意識しているとすれば、一度書き終えてから、このラストのためには、「この始まりがベストなのか?」「この人間関係は必要なのか?」を、逆に戻りつつ推敲してみることでしょうか。そこでがらっと書き出しを書き換えてしまうこともあります。
●アズマ:見えないものの畏怖、得体の知れない恐怖は、まさに乃上さんの小説に欠かせない要素ですよね。明らかに怖がらせてやろうというのが透けて見える小説もある中、こういった書き方はすごく有効だと思います。推敲で書き出しが変わることもあるとのことですが、物語を書いているうちに結末が変わるとか、もしくは登場人物が勝手に動き出すとか、そういったことはありますか?
○乃上さん:妄想コンのような短編の場合、頭の中で大まかな起承転結と登場人物を考えて書き出すのですが、書き始めてから別の結末の方が面白いかもと途中で変えることはあります。
200回記念の『ハンゴンサマ』は、主人公が怪異に対し、「これからもよろしく」と決意を込めて告げるラストを決めてから書き出し、まったくぶれることはなかったです。
●アズマ:『ハンゴンサマ』は河出書房新社賞を受賞、5分シリーズにも収録された作品ですね。私も読みましたが、最初から最後まで一貫して捕えようのない恐怖が続き、読んだ後も物語に心を引きずられるとんでもない作品だと思います。
○乃上さん:読後も引きずられるなんてそれは嬉しいです。ありがとうございます!
一方、215回の『雪仏』は、“夜の雪原からリヤカーで白無垢姿の亡き花嫁を連れ帰る花婿”というシーンがまず生まれ、花婿を主人公にラストまで書きました。でも、花嫁のシーンは誰かが目撃する、その目撃者を主人公に語らせた方が面白いかもと思い直して設定を変え、結果的にラストも変わり、ほぼ書き直しました。すごく無駄な手間をかけていますね(笑)
ただ、登場人物が勝手に動き出すというのは、短編の場合はない気がします。登場人物にはそれぞれ“自分の役割”があるので、短い字数の中でさらにプラスアルファの動きが生まれる余裕はないと思うんですね。
長編では、「これって登場人物が勝手に動き出したってこと?」とか「そっか、これを言いたくて登場してたんだ!」と感じる瞬間があって、凄くわくわくしたことはあります。
でも、それがいいことなのか、実は判断に迷っています。
プロットをしっかり作ってから書いていれば、勝手に動き出さずともその動きや言葉は最初から予定されていたわけで、となると“キャラが勝手に動き出す”はまだまだ自分が未熟で作り切れていない証拠なのかもしれないと……。これについてはまだ答えは出ていません。皆さんの意見を聞いてみたいです。
●アズマ:私も長編を書いていて、キャラが勝手に動く、というより、正しい道に導いてくれるようなことが何度もあります。執筆している誰もが経験したことがあることなのかもしれません。さて、乃上さんの怪談話はどれも魅力的ですが、何か物語の参考にしているものはありますか?
○乃上さん:参考にしているとしたら、東北に来て五感で体験したことでしょうか。と言っても霊感はありません(笑)
東京から東北に越してきて、小説に出てくるような集落でしばらく暮らしました。
家を出れば漆黒の闇がある場所で夜、地元のお年寄りに昔話、因習、民間信仰などの実体験を聞かせてもらったのは、とてもわくわくする刺激的な体験でした。もともと日本の昔話や歴史ものが好きだったのもあるかもしれません。
東北の民間伝承をもっと知りたくなって、民俗学研究会の名ばかり会員になって研究者の方の発表を聞いたり読んだり、あるいは宗教民俗学の市民講座で学んだりしました。
でもその時は、それで小説が書けるとはまったく思っていませんでした。
エブリスタに登録して、まずは東北で見聞きしたことをまとめてみようと書いた長編がホラー1作目です。
その後、妄想コンテストに参加するようになって、そうした知識がモチーフに使えると気付き、実は自分が一番驚いています。
●アズマ:東北で暮らした生の経験は貴重ですね。民俗学研究会や宗教民俗学、色んなことを学んできたからこそ、乃上さんの恐ろしいホラー小説が出来上がるのだなと納得しました。それでは今回のテーマについて、最後の質問です。コンスタントに作品を書き続けるコツを教えてください。
○乃上さん:コツ! それはぜひ教えて欲しいです(笑)
妄想コンとは別に、長編の連載などもやっていきたいと思っているのですが、予定を立ててもどうしても現実世界の忙しさに負け、予定通りにいかないことが多いです💦
でも、妄想コンテストに参加する短編を二週に一度書くというのは、生活の一部になってきました。これがなければ、一週間位書かないなんてこともありそうです💦
しばらく書かないでいるとどうしても調子が狂ってしまうので、一日500字でも、いえ100字でも書くことは大切だな~と思います。
その点、妄想コンテストの締め切りは、忙しいと焦りもするけれど、とてもありがたいですね(笑)
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