③ホラーについて

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③ホラーについて

●アズマ:3回目は「ホラー」についてインタビューしていきたいと思います。 乃上さんと言えば「ホラー」というイメージが強いですが、このジャンルの魅力を教えてください。 ◯乃上さん:これは凄く難しい質問ですね。 私は『ハンゴンサマ』でホラーのイメージが強くなったと思うのですが、最初にお話ししたように因習ホラーとか現代ファンタジー寄りのホラーを書いています。 エブリスタにはたくさんの良質のホラー作品を書かれている方、多くの作品が書籍化されプロになられた方など、尊敬できるホラーの書き手さんがオールマイティに活躍されています。 今、ホラーといえば心霊だけでなく、人怖、イヤミス、デスゲームや殺人鬼とさまざまあり、その中で私の書くものはほんの一部なので、その部分について自分で感じたことしか話せませんが……。 何か大きな存在を畏怖する気持ち、死んでもそれで終わりではないと信じる気持ちを、多かれ少なかれ日本人は心のどこかに受け継いできていると思います。 そして、そういう存在を感じることで、謙虚になったり、安心感を覚えたりするんだと思います。 そういった体験を創作を通してできるのがホラーの魅力だと思います。また、夜が明るくなり、それまで怪異とされていた不思議な現象が科学的に説明できるようになっても、トイレの花子さんとか口裂け女、あるいはきさらぎ駅や犬鳴トンネルと、さまざまな都市伝説が生み出されています。皆、ホラーが好きなんだなと思いますね。 当たり前の日常の中に非日常が潜んでいて、日常を蝕んでいく恐怖。そういったことを実体験するのはごめんだけれど、創作を通して体験するのは怖面白いんですね。 ●アズマ:エブリスタでもホラー好きは多いですよね。書くのも読むのも。コンテストもいっぱいありますし、需要があるという裏返しでしょう。様々なホラーの種類があるというのも本当にその通りで、一概にこれがホラーだとは言えず、様々な要素を取り入れて面白い物語になっていると思います。 ◯乃上さん:それと、青春小説といってもその中に友情、恋愛をテーマにしたものもあればスポーツや部活、親子関係をテーマにしたものがあるように、ホラー小説にも、ホラー×恋愛、ホラー×親子愛と、その中には様々な人間ドラマがあります。ホラーという舞台の上で起こる人間ドラマは赤裸々に描ける気がして、個人的には魅力を感じています。 ●アズマ:一つ、個人的な質問ですが、私が好きなホラーは人間味を削ぎ落としたようなサイコ系の作品でして、読むのも「悪の経典」のような小説が好きで、私自身が執筆するのもサイコホラーが多いです。そういったサイコホラーのジャンルはどう思いますか? ◯乃上さん:嫌いじゃないです。と、エブに来てわかりました(笑) これまでたくさんの本の中から1冊を選ぶ時に、人間味ある方を選んで、サイコホラーを選ばなかっただけだったんだって気づきました。食わず嫌いですね。 エブリスタで交流のある方のサイコホラーを読む機会ができて、面白いし、嫌いではないとわかりました。 ただ、自分が書けるかというと難しいですね。たとえ不条理な理由だとしても、何か意味を込め、人間味を出そうとしてしまうので、サイコホラーを書くにはもう少し修業が必要なようです。 ●アズマ:ホラー小説を読んだり、ホラー映画を見たりすることは多いですか? ◯乃上さん:これ書くと呆れられると思いますが、視覚から入るホラー映画は実は苦手で💦見ても指の隙間からしか見られないかも(笑) また、今住んでいる地域で一番近い映画館となると、県を跨いでの移動になるので、なかなか映画館で映画を見るということができません。 ホラー小説は視覚から受ける刺激はないですが、自分の想像力次第でどこまでも恐ろしく想像できるので好きです。ホラー小説を書くようになる前から読んでいましたが、やはり日本のホラーが中心でした。 静かに忍び寄る恐怖に対峙していく話、民俗学や因習が関わるホラーが好きでした。 ●アズマ:ホラー小説を書く人で、視覚的なホラーが嫌いという人は意外に多いように思います。たしか、ホラーの巨匠の某エブ作家もそう言ってたような。 ◯乃上さん:それを伺い安心しました。ホラー映画もちゃんと見られないくせに、ホラー小説書いていいのか?と、思うところもありましたから。 ホラー映画は駄目なんですが、ホラー漫画は大丈夫。動かないといいのかな? でもお化け屋敷は仕掛けだけなら大丈夫で、人が脅かしてくる系が駄目です。なんででしょう? ●アズマ:ホラー漫画やホラー映画と違って、ホラー小説は想像次第でどこまでも恐ろしくできる、というのは同意見です。そこがまさに小説の醍醐味でしょう。読者の恐怖の想像を無限に膨らませるために、ホラーを書く作家として何を意識すれば良いと思いますか? ◯乃上さん:難しい──。逆質問ですが、アズマさんはどんなことを意識されていますか? ●アズマ:私が小説のホラーで意識するのは以下の3点かなあと思います。 一つは、描写を控えめにすることです。スプラッタホラーのように、おどろおどろしい描写を入れてリアルに書く人はいますが、リアル度合いで言えば映像には敵わないかなと。それなら、いっそ、描写を少なくして、(もしくは匂わせるようなものを入れて)あえて視覚情報を少なくして読者の想像に委ねる、というのはありですね。 二つ目は、叙述系の仕掛けです。映像ならカメラに映るもの全てが視聴者に伝わりますが、小説なら色んな部分を隠すことができ、色んなトリックを使えます。これはまあ、ホラーというジャンルに限らないことでしょうけどね。 三つ目は、心理描写です。映像と違って、文字であれば登場人物の心理も描きます。これはまさに小説の醍醐味であり、ここを生かせるかが作家としての腕の見せどころかなと思います。エブリスタの作家さんはどちらかというと淡々とした心理描写の人が多いですが(乃上さんもそうかな)、たまに鬼気迫る心理描写で、登場人物の心音まで聞こえそうな描写に出会うと心が躍ります。 ◯乃上さん:わあっ!すごく参考になります。特に3つ目、鬼気迫る心理描写、読んでみたいです。 アズマさんのお話も踏まえて、意識しているというか、そうしたいと思っていることを、二つ絞り込んでみました。 それは、リアリティと伏線の出し方です。 小説、特にホラーは作り事過ぎてはしらけてしまうので、リアリティのある物語にしたいです。 小説はおっしゃる通り映像とは違い、視覚、聴覚だけでなく、味覚や嗅覚、それに触覚も言葉で表現できます。ですから嫌な匂いや気味悪い肌触りも表現するとか、そうやって“五感を使って書く”ことでよりリアルに怖さを感じてもらえたらと思います。 また、すべてのホラーに当てはまるかはわかりませんが、私の場合、登場人物、特に主人公がしっかり日常を生きていること。 平凡な日常を送っている普通の人が怪異に巻き込まれていく、その人の普段の生活や感情がリアルに描けていたら、読者はすんなり物語に入ってくれると思います。 それから、伏線の出し方についてですが、伏線はアズマさんのおっしゃる“仕掛け”と似ているかもしれません。 伏線の出し方次第で物語の面白さは変わってきます。これはホラーだけではありませんが……。 はっきり出し過ぎると、序盤で結末が読めてしまうし、伏線が弱いと唐突なラストになり、読後に物足りなさが残ります。 出し惜しみせず、出し過ぎでもない、読み手に違和感や引っかかりを与えられる伏線とその回収の匙加減が大切だと思います。 ●アズマ:リアリティという点で同意見です。ハリボテのようなホラーは、あえて狙ったものもありますが、どこか滑稽に思えてしまいます。現実ではあり得ない世界を、どこまで現実に肉薄したものにできるか、そこがホラーを描く上で最も大事なことかもしれませんね。五感を使うというのは、執筆において基礎的なことでもありますが、ここを忠実に描ける人が結果を出しているように思います。
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