紅刀の用心棒は魔法を知らない

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 いかんいかん、他人の噂話を聞き耳を立てて聞いている場合ではない。某はギルドに仕事をしに来たのだ。  受付に向かい、受付嬢から依頼を受ける手順などを一通り説明してもらった。ちなみに昨日、某に仮登録証を渡してくれた受付嬢はいなかった。  クエストボードに向かい、たくさん貼り付けられた依頼書を見る。  この依頼書の中から自分に合った仕事を選ぶようだ。  文字が読めないので依頼書の内容は分からないが、受付嬢からFランク相当を意味する文字を教わったのでその文字が書かれた依頼書を探した。  一番下に張られた依頼書の数件ほどがそれらしい。文字数も少なく、ややこしい内容ではなさそうだ。  文字を読めないうちは依頼内容もざっくりとだが受付嬢に聞かねばならない。手間をかけるなと思いつつクエストボードから依頼書をはがし、受付に持っていく。  某が受けた依頼は、通称『花畑』と呼ばれる低ランク冒険者の狩場、そこに生息している虹色に輝くどろどろの魔物(虹色スライム)が落とすどろっぷ品の回収らしい。そのどろっぷ品というのは魔物を倒せば手に入るという意味らしく、そいつが体内で生成する花の雫と呼ばれる結晶体が今回の回収目標だ。  花の雫は、花の蜜で構成された光輝く宝石のようなもので、それを三つほど集めるらしい。  Fランクの依頼の中ではそれほど難しい依頼ではないようで、面倒ではあるが危険も少なく、某には合っているのではないかと受付嬢は太鼓判を押してくれた。  面倒である理由は、そのどろっぷ品は、虹色のスライムを倒せば確定で手に入るものではないらしく、奇しくもれああいてむ(レアアイテム)と呼ばれている物らしい。レアアイテムは入手が比較的困難な珍品で、レア度に応じて希少度があがっていくのだとか<えすれあ>だとか<とりぷるれあ>などと説明を受けたがちんぷんかんぷんだった。  とにかく、集めるのには根気が必要とのことだ。  ちなみに花の雫は、ある程度の大きさがないと一個とは認められない、だがその逆に二個分ほどの大きさがあれば二個と数えてもよいらしく、初見で見極めるのは難しいので、その点は玄人の目利きが必要だと言われた。  そういったことを避けたいなら、一度道具屋に足を運んで、花の雫が実際どんな質量で取引されているかを知っておくのもいいかもしれないと。  花の雫は直射日光で溶けるほど繊細なので、扱い方も聞いておいた方がいいらしい。  ただ普通の冒険者にとって花の雫は価値が低く、誰かが捨てた花の雫が偶にフィールドに落ちていることもあるそうだ。今回に限っては工芸品の材料になるとのことなので、最悪、汚れた物を納品してもよいそうだ。そういう場合、削って成型するので問題ないと。  花の雫は甘味料としても利用されるので、人の口に入る場合はある程度の衛生面も問題になる。  入手法はとくに指定されておらず道具屋で買い求めてもいいそうだ。しかしそれは最終手段で、違約金をどうしても払いたくない場合。報酬に比べて支払金額が割高になるため、あまりお勧めはしないと言われた、ただ依頼が失敗になると冒険者としては信用問題にかかわり、場合によっては降格などもあり得る。なので、そこは冒険者の自己判断に任せるらしい。  ただし今回の場合は、納品期限が短いことには留意するよう言われた。  某が受けた依頼は、すでに出されてから数日が経過している、単価が安いので、引き受け手がなかなか現れなかったらしい。  ギルドも依頼を取り下げようか検討段階だったようで、そこは文字を読めないことが裏目に出たと言えそうだ。  違約金は、報酬や条件のいい依頼を一人の冒険者が独占するのを防ぐために導入したらしく、報酬金額の5%が罰金として設定されている。  ちなみに納期を過ぎてからの依頼達成も、まったくの無意味ではないらしく、報酬額は、がくっと減額されるが、違約金を支払ってもとんとんの収入になるようには設定されている。違約金ばかり支払わされている冒険者でも、しっかり依頼を達成すれば収入はちゃんと安定するのだ。
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