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突然、カンナの四方から土壁が出現、カンナを囲う。カンナは足を負傷しているためどこにも逃れられず、さらに頭上を土くれが覆った。土の檻?
「こいつは土の絶対防壁だ、魔法が使えないお前にはどうすることもできないだろ!!」
ザンザの挑発に土の檻の中からキンキンという甲高い音が聞こえてくる。カンナが壁の内側を短剣で斬りつけて抵抗しているのだろう。
だが壁はびくともせず、崩れる様子はない。
どうやらただの壁ではないようだ。物理的な攻撃が効きにくいような、そんな性質があるように思えた。なにより音が金属音に近い。
「わかってねえなカンナ、魔力で強化された壁は単なる土じゃねえんだよ、そもそも物理攻撃はもちろん下級魔法だって跳ねのける防御壁だ。簡単には壊せないようにできてる。その壁を合計五枚、敵を囲むように張り巡らせる、この防御魔法――いや、捕獲魔法は最強だぜ」
悪趣味な魔法だと某は思ったがザンザは誇るように自分の魔法を説明すると高らかに笑った。次の瞬間、その眼にどんよりと影が浮かぶ。
「そしてこの魔法には次の段階がある、ふん」
ザンザは、両手の間に空いた空間を狭めるように手を動かす。するとカンナを囲んだ壁が徐々に縮んでいく。ゴゴゴと音を立てて、中にいるカンナの焦るような金属音が立て続けに響く。
「くっくっく、潰れちまえ……」
ザンザの凶悪な目がギラリと光った。勝負はザンザの勝ちで決まったはずだ。ならば命を取る必要はないはず。たとえこれが当人同士の真剣勝負であっても、カンナ殿は某にスキル指導をしてくれたお方、見捨てるわけには――。
某は木刀を構えた。物理攻撃は一切通用しない檻、本来なら術者であるザンザを攻撃するのが常套手段と思われるが、しかしこれはあくまでもカンナ殿が受けた勝負、某が横槍を入れるわけにはいかない。だとしたら某にできることはカンナ殿を救い出すことだけ。
木刀を振り上げ、土の檻を睨みつける。神経を研ぎ澄ませ、檻に向かって……駆け――。いや……この檻を破壊するのに、今持てる全ての力を尽くすのなら、この得物ではない。某は木刀を仕舞うと、妖刀に手を伸ばす。
鞘から刀を抜くと、あいも変わらない黒い刀身が覗いた。ごくりと喉を鳴らし、刀を持ち上げ、上段に構えた。この得体のしれない刀を使えば自身さえ傷つけ兼ねない。しかし、この刀ならできるかもしれない。いや、この刀でできなければ、なにをやったところで無駄だろう。
中にいるカンナも斬ってしまい兼ねないので、狙いを壁の上半分、袈裟に斬ると決める。
そしてもし、某の中に何らかのスキルが宿っているなら、今、この瞬間、恩を受けた相手を救うために発動してくれい!
『あちき以外に大切なものなど殿には不要……さあ、遠慮はいりませぬ、すべてを断ち切りなさいませ』
「くっ」
なぜか刀が勝手に動き、檻の中にいるカンナの位置がわかっているかのように狙いを変える。馬鹿な、やはり妖刀、某を操ろうとしてくるか。妖刀などに屈してなるものか。それを強引に力任せに狙いを変えさせ、足を無理やり踏み込み、駆ける。
「キエエエエエエエイ!」
救えぬものも数多くあった。しかし某は拾えるものは拾う主義だ。だからカンナ殿、諦めめさるな。気合の声と共に体の制限を解除、その瞬間、自身が気合の声を発しているからか、周囲の音が徐々に静かになっていく妙な感覚に陥った。心の中まで静まり返っていく。これは――。
剣術とは心で斬ること……斬れると思い込めばどんなものでも必ず斬れる……研ぎ澄まされた心で斬るのだ。
『やめなさい! 危険です!』
受付嬢の叫びと共に、檻に刀が振り下ろされる。
周囲の景色が一瞬のうちに通り過ぎ、そして極限状態から叩きこまれたその一撃は、振り抜いた瞬間、ある種の真空状態を作り出した。
結果を見てすらいない某の心に確信が宿る。斬った……と。
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