紅刀の用心棒は魔法を知らない

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 ザンザが某に振り下ろした手斧を紙一重で避ける。某がさっきまで立っていた地面にザンザの手斧が突き刺さった。しかしそれは、かわされる前提で振り下ろされた宣戦布告だ。 「今のは挨拶代わりだ」 「どうしてもやるのでござるか?」 「へへへ、泣いて謝っても許さねえ、お前は俺をコケにした」  しかし、いざ某が木刀を抜いて構えると、ザンザはぎょっと目を剥いた。剣士の覇気に恐れをなしたようだ。 「てめえ……」 「某もまだまだ未熟……その安い挑発、乗ってやるでござる……無傷というわけにはいかぬが、よいな?」  さきほどまで威勢よく吠えていたザンザが言葉を失くして目を丸くした。雰囲気の違い、剣士は立ち合いになると心が変わる。ザンザも初めて見たのだろう、剣客の覇気というものを。  ザンザは動揺していた。気圧され、怯えた目をしている。  ザンザがこれで引いてくれるなら、それ以上、ことを荒立てる必要はないが。  しかしザンザは意地があるのか引かなかった。  手斧を構え、徹底抗戦の構えだ。  某はやれやれと息を吐く。最後通告をしたというのになぜわからないのか、某はいつにもなく苛ついている。  ザンザは自身が抱く恐怖心を吹き飛ばすように意気込んで手斧を振るった。某が放つ覇気にも挫けず攻撃してきた。  ああ、なるほど、どうしてザンザを前にしても、某がこの男をまったく脅威に思っていないのかが今わかった。この感覚はカンナが捕らわれていた土の檻を破壊した時に感じた高揚感に似ている、勝てるという確信だった。  ザンザの攻撃が金属音を響かせて途中で止まる。ザンザは目を見開いた。信じられないものでも見るように。  攻撃を止めたのは木刀だった。  ザンザの全力を、いとも容易く受け止めたのは材質からして劣っているはずの木刀だ。金属と金属がぶつかる音がしたが原因はわからない。 「ぐっ」  力を込めてもびくともしない。そればかりか。バキンと音が鳴ってザンザの持っていた手斧が砕ける。某が斬り返した木刀の一撃によってザンザの持っていた手斧は、奴の手の中でバラバラになって崩れ落ちた。 「ど、どうなってる、てめえのそれはいったい……」  某が持っているのはただの木刀だ。それは間違いない。材料を調達した本人が断言するのだから間違いない。某はただ落ちていた手ごろな木を拾っただけだ。多少、形を整えてはいるがそれだけだ。これは木刀が持つ特殊能力などではない。  スキル:強靭なる意志。 自身が抱く想いの強さに応じて、いかなる物質の防御性能、耐久性能も上げることができる、付与する対象は自身と、自身が触れている物質のすべて。脆くもあり硬くもある、その力の本質は、固い信念に由来する。  木刀を振り抜き、ザンザの持つ、もう一方の手斧を破壊する。ザンザは訳が分からないというように膝から崩れ落ちた。
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