六月の雫

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 雨が降り始めた。  しとしとと細かく、絶え間なく。  縁側に目をやる。  やはり、そこには車椅子に座った母の姿があった。  雨の日、母は決まってそこにいるのだ。  梅雨入りのこの時期、雨が降るのは決して珍しくはない。  だが、朝晩はやはり冷えるのだ。  母のブランケットを取ってそっと肩にかける。  母は屋根から滴る雨の雫を眺めていた。  大きな瞳に涙をため、(うな)る様な声を喉から発していた。  知っている。  母は歌を歌いたいのだ。  大好きな「六月の(しずく)」という歌を。  そして、思い出している。  二度と歌えなくなったあの日のことを。  六年前、まだ高校生だった頃の自分がいかにクズだったかを隠すつもりは無い。  その頃の僕は毎日の様に家から金を取っていた。  毎日の様にお金を費やした。  勝ちもしない賭博(とばく)に。  不良少年達とつるんで、タバコを吸っていたし、酒も飲んだ。  時折薬にも手を出した。  だが、こんなクズな自分でさえも、クズと(ののし)りたくなるほどのもっと最低な奴がいた。  それは父だ。
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